カンゲキのススメVol.10 青年団 アンドロイド版「三人姉妹」


カンゲキのススメは、東京を中心として、これから始まる公演のご紹介を主に行うページです。演劇初心者の吉祥寺シアターの新人職員O君が、先輩職員Kさんに色々と観劇にあたっての質問をしていきます。お読みになっていただいた方に、今までは知らなかった劇団や新しい魅力などを見つけていただき、劇場へ足をお運びいただくきっかけになればと考えております。

今回取り上げるのは、現在大好評上演中の青年団「アンドロイド版 三人姉妹」です。


■青年団のお芝居について

O君:青年団の「三人姉妹」好評ですね!ロボットやアンドロイドには皆さん興味津々といった感じですし。

Kさん:生のアンドロイドを間近で見たときは私もびっくらこいたわ。

O君:(・・・びっくらこいた?)

Kさん:いやあ、薄暗い中で1人座っているから、どうしたんだろうと思って、大丈夫ですかって声かけちゃったのよ。反応ないから戸惑っていたら「それアンドロイドですよ」って・・・。以前に舞台(青年団「さようなら」)で見たときも、ほとんど人間だなと思ったけど、いやはやすごいわね。

O君:(・・・いやはや?)Kさんは、青年団はよくご覧になるそうですね。僕も拝見したことはあるのですが、紹介するというのはちょっと難しそうなので、読者の皆さまにご紹介を・・・

Kさん:そうね、青年団を率いる平田オリザさんは、「現代口語演劇」というものを提唱した人で、今となってはかなりポピュラーなスタイルになっているけれど、その当時はかなり特殊だったそうです。

O君:普通の日常会話のように淡々と話していくスタイルですよね。初めて観たときは、それまでの演劇のイメージ、例えばお客さんの方を観ながら叫んだりするようなものとは全然違って、本当に自然でびっくりしました。

Kさん:彼の演劇理論は平田さんの著書(例えば『演劇入門』『現代口語演劇のために』など)を読んでもらうのが1番良いと思うので、ご興味のある方はぜひ読んでみて下さい。私は何冊も平田さんの本を読ませていただいていて、私自身かなり演劇と関わるにあたって影響を受けています。

O君:ふむふむ。じゃあ、今度早速読んでみます!Kさんは平田さんの作品のどういった部分にもっとも魅かれますか?

Kさん:これは完全な主観で、あんまりこういう風に思っている人はいないのかも知れないけど、平田さんが描き出す“人間の孤独”に、人間という存在の本質を感じて、それに胸を掴まれるように感じるのです。

O君:人間の孤独、ですか・・・?

Kさん:人間は、たとえどんな関係にあっても、別々の存在で、生まれてくるのも死んでいくのも、全部私1人のものですよね、本質的に。平田さんの作品からは、人間が持つ絶対的な孤独を強く感じます。たくさんの言葉を交わし合っても、家族だったり恋人だったり友人だったり、どんなに深い関係を築いても、それでもその絶対的な孤独の溝は埋まらない。むしろ言葉を重ねれば重ねるほど、その本質的にはわかりあえない・埋まらない溝というのが浮き彫りになっていく。青年団の過去公演に「隣にいても一人」という作品があるけれど、この言葉は平田さんの作品を端的に表現した言葉のように感じるわ。

O君:それはなんとなくわかる気もしますね・・・。でも、平田さんはむしろその孤独を突き放したりするのではなく、その孤独に寄り添って冷静に見つめているような、そういう平田さんの眼差しのようなものを感じますね。

Kさん:そうね。それはたぶん、溝を浮き彫りにするだけだと突き放したような感じになっちゃうのだろうけれど、平田さんの場合はそこから一回転するというか、その絶対的な溝があるからこそ人間は言葉を重ねていくことが必要で、たとえ溝を全て埋めることが不可能であったとしても、その言葉を積み重ねた先にしか私たちは関係を深めていくことができない。だからこそ、青年団の公演はたくさんの会話を積み重ねて出来上がっているのではないかと思っています。


■「アンドロイド版 三人姉妹」について

O君:もう公演はご覧になりましたか?

Kさん:実はまだです。早く観たくてうずうずしているのに、他のみんなに先を越されています。チェーホフの名戯曲『三人姉妹』をもとに作られた作品なわけですが、平田さんはアンドロイドを使った本格的な演劇を作るにあたって、『三人姉妹』をベースにした作品をつくることをすぐに思いついたそうよ。

O君:そうなんですね。アンドロイドやロボットと何か通じるものがあったのでしょうか。僕はKさんより一足先に初日に観劇してきました。今回の作品に登場するロボットたちの役回りとしては、三人姉妹のうちの一人をアンドロイドのジェミノイドFが演じ、それから一家の“家政婦”のような役回りをロボビーが演じています。

Kさん:かつては家電メーカーの生産拠点があり、大規模なロボット工場があった日本の地方都市。円高による空洞化で衰退した町に残る小さな研究所を抱え、この町に残って生活を続けている三人の娘たちを主人公に迎えて物語が展開していくんですよね。

O君:はい。僕個人の意見としては、青年団の舞台って淡々と進んでいく物語に散りばめられた「引っかかり」が重要なモチーフになってくるというか、その物語の全てを象徴するようなテーマが本当に些細な台詞や間に込められていて、一時も目を離せない面白さがあると思っているんです。今回もまさにそうで、物語を追うのに夢中になっている僕たちを時折突き放すようなハッとする台詞があって、否応なしに自分たちの日常や現実というものを思わざるをえない作品になっていました。

Kさん:決定的な場面展開や、音響や照明を使ってテーマを際立たせる作り方とは全く異なる作り方がなされていますよね。ロボットたちの活躍はどうでした?

O君:あまり細かく言うとネタバレになるのですが…今回出演している2体のロボット、ロボビーとジェミノイドFって、同じ“ロボット”でもちょっと違うんですよね。ロボビーはアニメに出てくるような、僕たちが一般的に思い浮かべるロボットの形をしている。一方ジェミノイドFは、見紛うくらいに精密に人間の姿を真似て作られています。その前提を踏まえて観た時にすごく面白かったのが、観客席にいる僕が無意識のうちにロボビーにはロボットらしさを、ジェミノイドFには人間らしさを求めていることに気づいて、とても不思議な気持ちになりました。同時に「一本取られたな」という気持ちにもなりました。まんまと平田さんの術中にはまったような気がして(笑)

Kさん:へえ、それは興味深いわね。

O君:物語全体としては、繁栄の時を過ぎて衰退の途にある一家を通して、どのような日本社会の未来が描かれるのか、ひとつひとつの台詞に注目していただければと思います。

Kさん:アンドロイドやロボットが当たり前に人間の生活に溶け込むようになる、というのは、遠い未来の話ではないような気もするしね。わたしたちのリアルな日常に起こりうる未来の物語を観る様な気分で楽しんでいただければと思います。

O君:既に公演を観劇したお客様のアンケートに目を通してみると、「アンドロイドやロボットたちから漠然とした寂しさを感じた」と書いてくれた方もいたみたいです。ロボットたちがどんどんと人間に近づいていく一方で、人間とロボットの間にある越えられない壁のようなもの、異質の部分も明るみになっていくのかもしれませんね。

Kさん:近づけば近づくほど、自分とは違う部分、根源的な違いが見えてくるっていうのは、人間同士の間でもよく起こることですよね。最初の方でも触れたけど、“人間の孤独”に近いものを、今回の作品でも感じることになりそうです。2012年の今、この作品を観るということがそれぞれのお客様にとって何か特別な意味をもたらすような、そんな観劇になればと思いますね。わたしも早く行かなくっちゃ!

O君:青年団 アンドロイド版『三人姉妹』は現在絶賛上演中です。公演は11月4日(日)まで。チケットは武蔵野文化事業団及び青年団にて受付しております。お時間のある方は、人間とロボットによる全く新しい演劇を目撃しに吉祥寺シアターにいらっしゃってくださいね。

 

青年団 アンドロイド版『三人姉妹』公演詳細はこちら→ http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2012/07/post-7.html