カンゲキのススメVol.33 青年団『暗愚小傳』


カンゲキのススメは、東京を中心として、これから始まる公演のご紹介を主に行うページです。演劇初心者の吉祥寺シアターの新人職員O君が、先輩職員Kさんに色々と観劇にあたっての質問をしていきます。お読みになっていただいた方に、今までは知らなかった劇団や新しい魅力などを見つけていただき、劇場へ足をお運びいただくきっかけになればと考えております。

今回取り上げるのは、10月17日より吉祥寺シアターで上演が始まる青年団『暗愚小傳』 です。

【武蔵野文化事業団にて、チケット販売中!】
青年団 『暗愚小傳』 10月17日(金)~10月27日(月)
公演詳細→ http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2014/06/post-25.html

 

 

 

 

 

O君:こんにちは!すっかり季節も変わりまして風薫る秋、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

Kさん:秋といえば秋刀魚!秋といえばサツマイモ!秋といえば果物狩り!

O君:Kさん、この前ダイエットするって言ってませんでしたっけ・・・?

Kさん:あーあーあー(耳を塞ぐ)なんか言った?そんなことより、今回も楽しみにしている公演の特集なんだから早く始めましょう!

O君:本日もKさんお得意の伝統芸能「聞こえていないふり」が炸裂したところで・・・
豊作の秋ということでカンゲキのススメでも連続しておすすめ公演を取り上げておりますが、今回取り上げるのは青年団『暗愚小傳(あんぐしょうでん)』です!青年団はこのカンゲキのススメのコーナーでも昨年の『もう風も吹かない』一昨年の『三人姉妹』を取り上げてきました。

Kさん:今年の『暗愚小傳』は詩人・彫刻家として活躍した高村光太郎の人生を基に書かれた作品なのよね。

O君:そうなんです。早速ですが作品の大まかなあらすじに入っていきたいと思います!
まず今回の作品は、4つの場面で構成されています。青年団の作品を見慣れているお客さんには、大きな場面転換があるというのは珍しく感じられる方もいらっしゃるかもしれません。この物語は明治から昭和にかけて活躍した芸術家・高村光太郎とその妻・智恵子の生活に焦点を当てたお話になっています。書籍化されている戯曲集(『平田オリザ戯曲集3 火宅か修羅か・暗愚小傳』)のあとがきでも明らかになっていますが、4つの場面というのは大体以下の時代を想定して書かれているそうですよ。

(1)1917年~1919年頃…光太郎と智恵子の新婚時代
(2)1928年~1930年頃…分裂病の症状を見せ始めた智恵子
(3)1937年~1939年頃…智恵子の死後、戦争協力へと傾く光太郎
(4)1947年~1949年頃…戦後の陰遁生活の中での光太郎

高村光太郎は1883年に生まれ、1956年に肺結核で亡くなりました。つまり今回描かれているのはおおよそ30代~60代の光太郎ということになりますね。

Kさん:詩人としての高村光太郎で言うと「智恵子抄」「道程」などは有名よね。「智恵子抄」はその名のとおり、妻の智恵子のことを書いた詩集で、元気な頃の姿から分裂病を発祥し病に伏せる最期の姿、そして妻の死後までを美しい言葉と表現で書き連ねているわ。この詩集を読むと、妻・智恵子の存在がどれだけ大きいものだったかが分かると思うわ。

O君:僕は今回の作品が高村光太郎の話だと聞いて、てっきりこの2人の恋愛模様を描いたものだと思っていたのですが、場面の展開を見ると、半分以上は智恵子の死後のことが書かれているんですよね。ちょうど(3)(4)のあたりは第二次世界大戦の始まり~終戦後までの時期にあたります。「戦争協力」という言葉が出てきますが、この時期、光太郎がいち芸術家としてどのような姿勢をとっていたのかがポイントになってきますよね。

Kさん:そのとおりね。彼が当時起こっていた戦争に対してどのようなスタンスを取っていたか、それは彼の芸術活動を追えば明らかになるわね。
智恵子の死後、日本は太平洋戦争に突入。光太郎は戦意高揚のために数多くの“戦争賛美詩”を当時の新聞などで発表したわ。その頃国際主義を掲げて活動していた多くの芸術家たちが戦争のはじまりと共に愛国主義へと主張を変え、戦争協力に加担するという風潮が出来上がってしまったとも言えそうね。

O君:戦後、光太郎は戦時中の自身の姿勢を恥じ、『暗愚小傳』という詩群を発表しました。これが今回の青年団公演の作品タイトルに繋がってきます。“暗愚”とは「物事の是非を判断する力がなく、愚かなこと」という意味ですね。このタイトルからも、苦悩する光太郎の姿が見えてくるようです。

Kさん:青年団主宰の平田オリザさんは、1991年にこの戯曲を書かれています。元々は同タイトルで内容の違うものを大学時代に上演していたそうよ。91年頃といえば湾岸戦争開戦に向けての準備時期ということもあって、この戯曲にもその影響が多くあったと平田さん自身も語っているわ。とはいえ平田さんの関心はやはり高村光太郎という人間そのものだったみたい。平田さんにとって高村光太郎の存在はいち芸術家というだけでない、特別な何かがあるようね。

O君:高村光太郎の詩で「雨にうたるるカテドラル」という有名な詩があります。これはフランスに留学をしていた光太郎が大聖堂(=カテドラル)を目にして、日本にはない西洋文明の巨大さ、圧倒的な強さのようなものを前にひとり佇む姿が詠まれています。同時に日本に生まれた自分を、小さなひとりの人間として自覚し前に進んでいこうとする姿も感じ取れる詩です。平田さんは16歳の時に自転車で世界一周旅行を計画、その際立ち寄ったフランスでお父様からの手紙を受け取ったそうですが、そこに同封されていたのがこの「雨にうたるるカテドラル」だったそうですよ。

Kさん:わたしは2003年に青年団が『暗愚小傳』を上演したときのDVDを見させてもらったんだけど、作中の光太郎と智恵子の会話にもこの「雨にうたるるカテドラル」が出てくるのよね。西洋文明に畏れを抱きながらも芸術家として生涯を送った高村光太郎、妻・智恵子に一生の愛を捧げた高村光太郎、戦争協力の先導を走りながらも自省の念に追われ続けた戦後の高村光太郎。この『暗愚小傳』ではひとりの人物を通して様々な生のかたちが見えてくる作品になっているわね。

O君:僕は戯曲を読んだんですが、平田さんはこの作品についてこう語っていらっしゃいました。

「ひとを救うこと、戦争に協力すること、ひとを愛すること、国家を愛すること、それらをつなぐ一本の糸は何でしょう。私はそれを知りたいと思います。」(『平田オリザ戯曲集3 火宅か修羅か・暗愚小傳』より)

Kさん:まさにこの言葉に尽きるわね。この作品を通して平田さんが描きたかったことがどのようなものなのか、是非劇場で体感して、皆さんの心の中で咀嚼していっていただければと思います。


≪さらに詳しく青年団『暗愚小傳』に迫る!≫


O君:さて、本作『暗愚小傳』ではいろいろな登場人物が出てきますね。皆さんに馴染みのある人で言うと、作家の永井荷風や宮沢賢治も出てきます。実際のところ、生前に光太郎はこの2人と交流があったのでしょうか?

Kさん:高村光太郎と永井荷風の二人は交流があったようだけれど、宮沢賢治は早世したため、彼の生前に顔を合わせたのは一度だけだと聞いているわ。

O君:作中では、永井荷風を通じて光太郎と宮沢賢治が交流をする様子が描かれていますね。この作品の中で、宮沢賢治はどういう存在として描かれているのでしょうか。

Kさん:これはあくまでわたしの考えだけど、宮沢賢治といえば老若男女誰もが知る日本を代表する詩人よね。宮沢賢治の作品や彼にまつわる文章を読んでいると、彼にとって詩というのは人生そのもののように感じるの。詩人としてこの世に生を受けた“生まれながらの詩人”とでも言うのかしら。一方高村光太郎は詩人という肩書きを持つ一方で、彫刻家としての才能も開花させた。光太郎は自らが創作する彫刻と詩の関係性について「彫刻を文学から独立せしめるために、詩を書くのである」(小学館「昭和文学全集」第4巻より)とも言っているわね。

O君:僕もその文章読みました!(こちらから読めます→高村光太郎/自分と詩との関係
確かにこれを読むと、光太郎にとって詩というのは彫刻ありきのもの、という感じがします。彫刻という芸術表現に収まりきらない想いを、詩という別の表現方法で形にしているような・・・

Kさん:光太郎は詩人としても高く評価されたけれど、自分が生粋の詩人である、という風には思えなかったんじゃないかしら。肺結核で亡くなる直前まで詩を紡ぎ続けたその姿は、「詩人としての高村光太郎」で在り続けたかった彼の心が見えてくるようね。

O君:宮沢賢治の没後、高村光太郎は彼の作品を世に送り出すことに尽力し、それもあって宮沢賢治は世間から評価を受けることになったんですよね。きっと光太郎は宮沢賢治に一種の憧れのようなものを抱いていたんじゃないでしょうか・・・
そして平田オリザさんは宮沢賢治の作品の舞台化もされています。子ども向けにつくられた『銀河鉄道の夜』を観たことがあるんですが、大人の僕も号泣に次ぐ号泣でした。平田さんにとっても宮沢賢治は特別な存在なのかもしれません。

Kさん:宮沢賢治は多くの詩や童話を通じて、世界中の人々にたくさんの夢を与えてきました。彼は平和主義的な価値観を持って作品を創作してきた作家。智恵子の死後、戦争協力へと流れていった光太郎にとって、宮沢賢治の生き方はどのように映ったのかしらね。作中でも光太郎と賢治が会話を交わす場面があるので、是非そのあたりも頭に入れて観ていただくと面白いんじゃないかしら。

O君:光太郎を取り巻く人々とのごく日常的な会話を通して、どんな“高村光太郎像”が浮かび上がるのか、今から楽しみですね。まだまだ事前勉強しておきたい!という方は、青空文庫から「智恵子抄」を読むことができますよ。公演まであと少し!皆さんどうぞお楽しみに。

Kさん:青年団『暗愚小傳』は吉祥寺シアターにて10月17日~27日まで上演されます!チケットのお求めがまだの方は、ぜひ武蔵野文化事業団チケット予約までどうぞ!


青年団『暗愚小傳』公演詳細ページはこちら!
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2014/06/post-25.html

チケット予約はこちらからどうぞ! https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/

青年団HP  http://s.seinendan.org/