『愛情の内乱』稽古場レポート(その3)


『愛情の内乱』稽古場レポート(その1)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その2)はこちら!



4/26(火)、約2週間ぶりに『愛情の内乱』の稽古場を訪れました。都内某所、吉祥寺から遠く離れた街、土地勘もへったくれもない完全アウェーの地なので、無駄にちょっと緊張します。

稽古場というのは、皆さんどういうイメージでしょうか?私の中ではワイワイガヤガヤ、喧々諤々のイメージがなきにしもあらずなのですが、実際に訪れてみると、そういう稽古場は結構少ないです。「意外と静か」です(もちろんそうじゃない現場も多々ありますが)。

さて、ティーファクトリーの稽古場はどうかというと、やっぱり「静か」です。休憩中などはもちろん雑談が交わされていたりもするのですが、それでも概ね結構静かです。でも、この日はもしかしたら前2回よりも静かだったかもしれません。
私としては「徐々に形になってきている段階で、川村さんから色々と細かく指示が飛ぶんだろう」みたいな稽古場風景を勝手にイメージしていたのですが、その手前勝手な想像と比較すると、とても「静か」な稽古模様でした。

ティーファクトリーの稽古場はあまり細かく切ったりはせず、ワンシーンごと、比較的長めにまわします。たまにシーンが始まって割とすぐに切って、修正をかける場合もありますが、それはまれなようで、この日もそういう場面は全然ありませんでした。

≪細かく止めて、細かく指示を出していく≫というのと対極にあるのが、演出家・川村毅のスタイルのようです。


川村氏は、途中ほとんど止めることもなく、シーンを粗方通させながら稽古を進めていきます。そして、切りのいいところまで終えたところで(これは流石にシーン丸々とは限りません。作家・川村氏は1シーンを比較的長めに設定されるタイプだと思います)、それまでの部分で気になったところを、個別に伝えていきます。でも、それもあまりたくさんではなく、2,3細かいニュアンスなどを中心に、大まかな方向性を調整したりという感じです。

これに役者さんはどう応じていくのだろうかと思ったのですが、同じシーンを繰り返すのを見て、すぐに気づいたことがあります。誰一人として、直前の返し稽古とは同じ演技プランで臨んでいないのです。 分かりやすく大きく演技プランを変えているのは笠木誠さんですね。思わず「すげー自由だな」と思ってしまうくらい、自由自在に毎回違うことをやってらっしゃいます。
「劇団でやっているとだんだんマンネリ化していくのが嫌だった」というようなことを、何かの折に川村氏から聞いた記憶があるのですが、第三エロチカ時代から今も引き続きカンパニーメンバーとして笠木さんと創作を続けているのは、この笠木さんの自由さ・貪欲さに、誰よりも川村氏が刺激を感じられるからなのかも知れません。
もちろん他の出演者の方々も、その笠木さんの自由さに応じたり、応じずに負けじと対抗してみたり、セリフや設定が変わる訳ではないのですが、観ている側からすると、「あー、そんな風にもできるんだ」とか「そういう解釈もできるのか」みたいな発見の連続です。そうしてどんどん新たな角度から光が当てられる稽古風景を、川村氏は、演出家席で足を組みながら、口元に手をあて、特に満足気でも不満気でもない、いつも通りややドスの利いた表情で眺めています。

≪ドラマ・ドクター≫の講座を吉祥寺シアターで行っていただいた時に、参加してくださった劇作家の方々との対話を見ていたときにも思ったのですが、川村氏は、相手を1人のアーティスト、1人のプロフェッショナルとして、そのやり方や考え方を最大限尊重されるタイプの方だと思います。劇作家としても、演出家としても、その姿勢は変わらないのでしょう。ティーファクトリーという、1つの作品を創作するうえで、ベストと思える俳優陣を集めて創作するという劇団時代とは違うスタイルだからこそできることなのかも知れません。

川村氏が現時点であまり細かく指示を出さないのも、俳優陣が提示してくる創意工夫を1つ1つ尊重し、彼らに多くを委ねている段階だということなのでしょう。いつも通りのややドスの利いた川村氏の表情は、彼らからの挑戦にビシビシ刺激を感じて、演出家として俳優陣に挑戦していく「闘いの表情」なのかも知れません。
川村さんのみならず、キャストの皆さんも、自分の出番でないときの稽古を見つめる眼差しが印象的でした。この眼差しの先に、舞台『愛情の内乱』が創り上げられていくのですね。

次回以降、更なる変貌を遂げているであろう稽古場の模様を引き続きお伝えして参ります。お楽しみに!(下の写真をクリックすると拡大します)



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※ポストパフォーマンストークのゲストが決定!
◎5/15(日)15:00
「時代を創った女優」
ゲスト:白石加代子さん&蘭妖子さん
アングラと呼ばれた時代。
"早稲田小劇場"の白石加代子さん。"天井棧敷"の蘭妖子さん。
時代を彩った二大女優が、いま語る"時代"。現在へ、そして未来の演劇へ。

◎5/19(木)15:00
「家族について」
ゲスト:穂村弘さん(歌人)
"兄弟"が多いのも大変だが、ひとりっこも大変?!
歌人・穂村弘さんを迎え、高度成長期に育ったひとりっこどうしによる、家族のお話。

◎5/21(土)18:30
「2016年のドストエフスキー」
ゲスト:島田雅彦さん(作家)
ロシア文学に造詣の深い作家・島田雅彦さんを迎え、
やさしく"カラマーゾフの兄弟"と"愛情の内乱の兄弟"の周辺について語ります。

上記の各公演終演後、短い休憩の後、ポストパフォーマンストークが行われます。
該当の各回にご来場のお客様は、公演後にそのままお席でお楽しみいただけます。


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稽古の休憩時に、白石加代子さんと蘭妖子さんが滑舌の話をなさっていて、こんな大女優になっても「滑舌」の話とかするのかと地味に感動したわけですが、その際に蘭さんが「寺山(修司)さんに『そのままの語りがいいんだ。滑舌など気にしなくていい』と言われていた」というエピソードを白石さんに語っておられました。そこに大場泰正さんが加わり「鈴木(忠志)さんは厳しそうですね」と白石さんに尋ね、そこから寺山修司さんと鈴木忠志さんの違いや、いくつかの興味深いエピソードが語られるというやりとりがありました。
個人的には、白石さんがおっしゃった「SCOTを出てから、私は『怖い(役を多く演じる)女優』になっちゃった」という一言と、蘭さんがご披露くださった「滑舌など気にしなくていいと私たち(=舞台出演者)に言っていた寺山さんが、ご自身の映画に出演する俳優には、その辺がきっちりした人を集めていた」というエピソードがツボでした。

5/15(日)の15:00の回終演後のポストパフォーマンストークは、川村氏がホストを務め、この白石さんと蘭さんのお二人をお迎えしてのトークです。「時代を創った女優」というテーマで、どのようなエピソードが語られるのか、非常に楽しみです。川村氏は中学生・高校生の頃から、天井桟敷も早稲田小劇場もご覧になっていたというマセガキだったそうなので、2016年の今からすると伝説に近いような日々のお話がたくさん聞け、若い方々には却って新鮮に感じられるかもしれません。


ティーファクトリー『愛情の内乱』公演詳細:
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/05/post-45.html
チケットのご予約(一般):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=126&type=O
チケットのご予約(学生):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=127&type=O

(文・構成・写真:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)