スタッフブログ:2016年05月

山本タカさん(くちびるの会)と想像/創造力




今年も早いものでもうほぼ5ヶ月が終了しようとしております。12分の5、41.666666......%(以下、6が無限に続きます。無限って何でしょう?)が終わってしまいます。切ないですね。もう2度と2016年5月という月はやって来ません。もっと言えば、この一瞬一瞬、この一秒一秒がもう2度とない時なのです。10代半ばの頃、そのことに気がついて怖くなり、1人泣いた記憶があります。
夏のような暑さを感じながら、それでももうそろそろ梅雨時で毎日雨だよなという警戒感を拭えない先日、6月一発目の公演、くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』の稽古場にお邪魔してきました。


今回が吉祥寺シアター初登場のくちびるの会さんですが、代表の山本タカさんが以前率いていた劇団「声を出すと気持ちいいの会」さんには、お隣の武蔵野芸能劇場で『富士の破れる日』を上演していただきました。なので、そこから約2年半の歳月を経て、吉祥寺シアターに帰ってきてもらったような、そんな心持ちでいます。



山本さんの作品の特徴を自分なりに一言で表すとすれば、


「『想像力』という名のオールを手に、
どんなことも起こり得る
無限の可能性を秘めた海に漕ぎ出す航海に出る感じ」


と答えます。ちょっと一言にしては長いですね。
私は歌人にはなれなそうです。



例えば、私がなにげなく食べているレタス&ハムサンドイッチ(という情報)からだけでさえ、私という人間を想像し、ドラマを作り上げてくれると思います。





............
なんでこの人はレタス&ハムサンドイッチを食べているんだろう?
お腹が空いている?それなのにカツサンドでもミックスサンドでもなく、レタス&ハム?
なんでだろう......?
カツが嫌いなのか?それともヘルシー志向なのか?
確かに割と痩せている...。
もしかしたらなにか健康に気を遣わなくてはならない病気でも持っているのだろうか...?
............


こんな風に(?)想像を積み重ねていった果てに、きっと現実の私とは大きく乖離した、それでいてどこか繋がりを感じられる存在として描かれるでしょう。それは彼の想像にはリアリティがないということではなく、たった1つしか情報がなくても、そこから想像の網を張り巡らせ、ちょうど蜘蛛の巣のようにドラマを構築し、新たな世界を創造するのが山本さんのスタイルだと思います。


『ホテル・ニューハンプシャー』『熊を放つ』など、アメリカの小説家ジョン・アーヴィングの書く、ドライブするように想像の世界を疾走し、目まぐるしく事件が起こり、どんどん自分が自分から離れていくようでありながら最後は自分に帰ってくる、そんなダイナミズムに満ちた物語に憧れを抱いていた私としては、作風は全く異なりながらも、山本さんの緻密かつ大胆な想像力がアーヴィングのそれに重なる気がして、憧れると言いますか羨ましいと言いますか妬ましいと言いますか、そんなどれでも当てはまるようなアンビヴァレントな感情を密かに、山本さんに抱いています。ここで書いたらもはや密かでもなんでもないですが。


劇場での仕事の都合上、稽古場にはほんの2時間ほどの滞在でしたが、その間、皆さんはとあるワンシーンを、綿密に稽古を重ねていらっしゃいました。繰り返されるシーン、そして演出の山本さんから俳優さんに出されるオーダーを聴きながら、改めてそんなことを感じていました。



私が最初に山本さんの作品を観はじめた頃は、もう少し演出的にはあっさりしているように感じていました。物語全体の濃密さは失われないようにしながらも、1つのシーン、1つの場面ごとはもう少し軽やかで、それがテンポ良く切り替わっていくという印象がありました。ですが、特に「くちびるの会」結成後は、1枚の絵の書き込みがグッと濃くなり、そこにこめられた情報量や感情の濃度が格段に上がっているのを感じます。一瞬一瞬に込められている想像の量が、格段に増えてきたのだと思います。


山本さんの作品を観ていると、なぜ「想像(=imagination)」と「創造(=creation)」という言葉が、どちらも日本語で「そうぞう」と言うのか、よく分かるような気がします。密接につながっているというか、きっとこの2つは同じことだったんでしょう。それをより明確に分けるために、いつしか別々の漢字が充てられたのではないかな、なんて想像してみます。


前回公演『カイコ』(SPACE雑遊)がやはり濃密で素晴らしく、観劇しながら「次、吉祥寺シアターでやってもらえて良かった」と思っていたのですが、僅か2時間、ワンシーンだけの稽古場でも、改めて同じ事を思いました。
『カイコ』が時間列車に乗って自らと向き合う旅の物語でしたので、そのベクトルは主に自分自身に向いていたと言えると思いますが、今回の吉祥寺シアターでの『ケムリ少年、挿し絵の怪人』は、江戸川乱歩「少年探偵団」シリーズの登場人物名を冠したキャラクターたちが躍動します。少年探偵団ですので、謎を暴こうとします。自ずと、想像力は他者へのベクトルとなり、劇場空間ともどもより広がりをもった世界が期待できるのではないでしょうか。
確実に言えることは、ご覧になるお客様も彼らの想像力にすべてを委ねるのではなく、ぜひ色々と想像を張り巡らせながら観ていただくと、ドラマが何倍にも広がり、よりお楽しみいただけるのではないかと思います。


ドラマ不遇ともいわれる現代の演劇界にあって、少し古風とも言える山本さんの戯曲、演出、ひいては彼の想像力が、どこまで羽ばたいていくのか、まずは吉祥寺シアターで、皆さま自身の目と耳と想像力でお確かめいただければ幸いです。


くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』は、吉祥寺シアターで6/3(金)~7(火)まで上演いたします。6/4(土)の回が少しお席少なくなっているようです。ご予約はどうぞお早めに。皆様と劇場でお目にかかれるのを楽しみにしております。私も初日を迎えるのが待ち遠しいです。
私のように待ち遠しい方は、公式PVが公開されていますので、是非そちらをご覧になってお待ち下さい。



くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』公演PV

くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』公演情報
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/03/post-46.html
チケットのご予約はこちら!(一般)
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=128&type=O
U-29(29歳以下)の方はこちら!
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=129&type=O




(文・構成・写真:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)



2017年10月・11月劇場利用申請について


6月1日(水)から6月10日(金)まで劇場2017年10月・11月の劇場利用申請を受付いたします。
 
今回申請できる日程は以下の通りです。
 
 10月10日(火)~10月28日(土)
 

申請を希望される方は施設案内をよくお読みいただき、
6月1日(水)~10日(金)の午前9時~午後5時の間
ご来館のうえ、書類の提出をお願い致します。

 

 

美術館でダンス!

 

書いた人:しだた


 比較的過ごしやすい毎日が続いていますね。そうこうしているうちに、吉祥寺シアターの事務所の中にもクールビズがやってきまして、ネクタイとも少しの間お別れとなりそうです。といってもまだ真冬用のコートをクリーニングに出していないのですが・・・うわさによると今年の夏は猛暑との話がちらほら聞こえてくるので、今から少し気合いを入れ直さないとなぁと思う今日この頃です。

 さて、吉祥寺シアターではティーファクトリー『愛情の内乱』が絶賛公演中ですが、今回は少し趣向を変えて、シアターのご近所・吉祥寺美術館での催し物をご案内したいと思います。吉祥寺美術館では、6月4日(土)から7月18日(月・祝)まで『佐伯和子展...糸の葉 一万五千枚の糸の葉が語りかける』という企画展が開催されます。染織家・佐伯和子さんの代表作・糸の葉シリーズの最新作が展示されるとのことで、吉祥寺美術館でここまで大規模なテキスタイル(織物や染物)作品を展示するのは初の試みだそうです!そして、そして、初の試みがもう一つ。今回の展示の関連企画としてダンサーの入手杏奈さん、香取直登さんによるパフォーマンスイベントも開催されるのです!

・6月4日(土)  振付・出演:香取直登
・6月11日(土)  振付・出演:入手杏奈
・6月25日(土)  振付・出演:入手杏奈&香取直登+ウッドベース(藤野俊雄)
時間:各回20:00~20:30  ※開場は19:50より
定員:各回40名(申込先着順)※すでに定員に達した日もあるそうなので、ご予約はお早めに!

予約の申し込みについては、こちらから詳細をご確認ください。
http://www.musashino-culture.or.jp/a_museum/eventworkshop/ev/ev2016/index.html

入手さんと香取さんはこれまで吉祥寺シアターでは、夏休みダンスワークショップに講師としてお招きしたり、2012年に開催したダンスインパクトにもご出演いただいています。そんなお二人が揃って出演されているスペシャルな映像がこちら↓

 


若者に大人気のロックバンド“9mm Parabellum Bullet”(読み方は少し長いですが、キューミリ・パラベラム・バレット)の最新アルバムに収録されている『Lost!!』という曲のミュージックビデオです。激しいロックの音に合わせて目まぐるしく変わるカットに映り込むお二人の踊りがかっこよすぎ!美術館ではここまで激しいパフォーマンスにはならないとは思いますが、熱量は同じくらいのはず!たまには、夜の美術館で美術作品とダンスのコラボレーションを楽しんでみるのはいかがでしょうか。ぜひご来場お待ちしております。

 

『愛情の内乱』


『愛情の内乱』稽古場レポート(その1)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その2)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その3)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その4)はこちら!



これまで全4回にわたってお贈りしてきた『愛情の内乱』稽古場レポート、完結編として本番レポートを、ネタバレを避けながらお贈り致します。

現在、絶賛上演中のティーファクトリー『愛情の内乱』、ご観劇されたお客様の温かい反応を沢山いただいております。
私も先日本番を拝見し、これまで読み合わせから通し稽古まで拝見し、戯曲も何周も読んでおり、それでも劇場での本番は全然違って見えるだろうと分かってはいたのですが、本当に想像以上でした。自分の中での上演イメージを当たり前のように悉く越えていく場面の連続で、自分の想像力の至らなさを軽く恨みたくなるほどでした。

『愛情の内乱』で私が個人的に最も好きなのは、現実からいきなり幻想の中に迷い込んだように、自分が今観ている場面が(そして自分自身が)、一体何なのか分からなくなる瞬間が訪れることです。1時間50分という尺の中では本当にごく一部の場面・時間なのですが、その僅かな場面がこの『愛情の内乱』という舞台に、「家族もの」や「ホームドラマ」という枠ではくくれない、決定的な深みを与えていると思います。
この物語において、その点で大きな役割を果たしているのが謎の家政婦・トラです。直接の家族ではないけれども、この家族ともに長い歳月を過ごしている彼女は、一体どういう存在なのか、ぜひいろいろと想像を膨らませながらご覧ください。そして、もう1人、この点で決定的な役割を果たしているキャラクターは・・・・・・これはご覧になってからのお楽しみ。ぜひ劇場にてご自身でお確かめください。

ところで、30歳男子、未婚・子ナシというステータスの私は、それまで本作の台本を読んだり、稽古を拝見したりしていても、カカ(母)に共感するということはなく、やはりどちらかと言えば、母の愛や干渉を疎ましく思う、息子の側の心情に近しいものを感じていました。そんな私でしたが、本番を拝見しながら、カカの言動や行動が初めてスッと自分の中で腑に落ちるのを感じ、私にとっては大きな驚きでした。
共感とは少し違うのかも知れませんが、私がカカという人物を初めてしっかり受け止めることが出来たように思いました。確かにカカは強烈なパーソナリティを持った人物で、私はそれまでその行動や言動にやや気圧される感じがあったのですが、本番を拝見して初めて「なんかこの感じ分かるかも」って思える程度には、彼女を理解できたように思います。


冷静に〈母〉を描ける時期が来たと直感し、この劇を書いた。


川村氏のお母様も、特に晩年は強烈なパーソナリティをお持ちの方で、川村氏もそれに大変悩まれたとのことですが、きっとそれを乗り越え、ただただその苦労を恨めしく否定的に思うだけでなく、強烈な印象はそのままに、それでもどこかお母様の気持ちに寄り添うことができるポイントを見つけられたからこそ、この作品を創ることができたのかなと、舞台を観ながら勝手に想像したりしました。

家族との関係がうまくいっている方も、そうでない方も、きっとご自身のご家族に対して多くの想いを馳せる作品となっていると思います。
13日(終了)、16日(本日夜!)、17日、23日公演には「ミニミニトーク」と題して、本作に出演中の男優4人がそれぞれ、ご自身の母について語ります。それに倣ってほんの少し私事を失礼しますと、最初に戯曲を拝読し、稽古場に何度かお邪魔し、そして上演を拝見する中で、私と私の母との関係について改めて考える時間が増えました。母との間に生じたわだかまりや嫌な記憶が解消されることはもちろんありませんが、それでもどこか客観的に母との関係を見つめ直すきっかけになりました。
数日後に偶然、上京する母と3年ぶりくらいに会う機会があるのですが、その時に渡そうかなと、人生で初めて母の日のプレゼントを買ってみたりしました。今年の母の日はもう終わっちゃったので、ちょっと遅いんですけれど。もっとむずがゆい恥ずかしさがあるかと思ったのですが、今のところそんなに悪い気はしません。

ティーファクトリー『愛情の内乱』は絶賛公演中です。
劇場では公演前日の16時まで前売りチケットをお取り扱いしております。お電話予約:0422-54-2011または、インターネット予約をご利用下さい。
また、当日券は全ステージご用意の予定です。開演の1時間前より、劇場1階ロビーにて販売を開始致します。
初日からダブルコールが起こり、終演後にはロビーに立つ川村氏に、醒めやらぬ興奮や感動をお伝えしてお帰りになるお客様が多数いらっしゃり、その光景を横で見ながら私も幸せな気持ちになります。私は口ベタなので、あまり上手に自分の感動を川村氏に伝えられませんが、拙文をその代わりにということで。
ぜひ生の舞台で、この奥深い家族の物語をお楽しみ下さい。『愛情の内乱』は5/25(水)まで毎日、吉祥寺シアターにて上演中です。皆様のご来場をお待ち申し上げております。


ティーファクトリー『愛情の内乱』公演詳細:
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/05/post-45.html
チケットのご予約(一般):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=126&type=O
チケットのご予約(学生):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=127&type=O

ミニミニトーク「母について」

5/16(月):長男・アニ役 大場泰正さん
5/17(火):ハル役 笠木誠さん
5/23(月):次男・ドス役 兼崎健太郎さん


ポストパフォーマンストーク

◎5/19(木)15:00
「家族について」
ゲスト:穂村弘さん(歌人)
"兄弟"が多いのも大変だが、ひとりっこも大変?!
歌人・穂村弘さんを迎え、高度成長期に育ったひとりっこどうしによる、家族のお話。

◎5/21(土)18:30
「2016年のドストエフスキー」
ゲスト:島田雅彦さん(作家)
ロシア文学に造詣の深い作家・島田雅彦さんを迎え、
やさしく"カラマーゾフの兄弟"と"愛情の内乱の兄弟"の周辺について語ります。


上記の各公演終演後、短い休憩の後、ポストパフォーマンストークが行われます。 該当の各回にご来場のお客様は、公演後にそのままお席でお楽しみいただけます。


『川村毅戯曲集 2014-2016』会場ロビーにて発売中!

『愛情の内乱』ほか、『生きると生きないのあいだ』『ドラマ・ドクター』という、吉祥寺シアターでこの3年に初演した新作3本が収録されています。
会場販売分限定、川村氏の直筆サイン入りです!ご来場の折は、ぜひお手にとってご覧下さい。

『川村毅戯曲集 2014-2016』詳細ページ(論創社ホームページ):
http://goo.gl/41I8rK


(文・構成・写真:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)

 

『愛情の内乱』稽古場レポート(その4)


『愛情の内乱』稽古場レポート(その1)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その2)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その3)はこちら!


まずはお知らせから。
すでにお知らせしております3回のアフタートークに加えて、終演後に「ミニミニトーク」なるものの開催が決定しました!5/13(金)、5/16(月)、5/17(火)、5/23(月)の、各日19:30の回終演後に開催いたします。出演は、

5/13(金):末っ子・ジン役 末原拓馬さん(写真中左)
5/16(月):長男・アニ役 大場泰正さん(写真右)
5/17(火):ハル役 笠木誠さん(写真左)
5/23(月):次男・ドス役 兼崎健太郎さん(写真中右)


です!

母について、家族について描かれたこの舞台に「息子たち」として向き合っている俳優4人が、俳優として、そして1人の息子として、母について語ります。
終演後5分程度の短い時間ではございますが、普段は見ることのできない俳優陣の「生の顔」をお楽しみいただけるかと思います。ご観劇の日程を迷われている方は、ぜひこの4回のいずれかをオススメします!


そして、お知らせその2。
なんと『生きると生きないのあいだ』『ドラマ・ドクター』『愛情の内乱』の、吉祥寺シアターで上演の、川村毅氏の新作3部作が『川村毅戯曲集 2014-2016』として論創社より発売されることが決定しました!パチパチー!!(拍手)詳細はこちらをご覧ください。
5/15の書店での発売に先がけて、『愛情の内乱』の公演時に劇場ロビーにて本戯曲集の先行発売も行われます。吉祥寺シアター公演のために執筆された戯曲が、1冊の本として纏められるのは、劇場としても感慨深いものがあります。全作品をご覧いただいた方もそうでない方も、ぜひお手に取ってお読みください!


閑話休題。
『愛情の内乱』稽古場レポートはこれが最終回です。今回は、公演直前の通しげいこの模様をお届けいたします。
世間はGW真っ只中、公演まで1週間となり緊張感の高まるこどもの日の5/5に、ティーファクトリー『愛情の内乱』通し稽古にお邪魔してきました。初めて通しで鑑賞した感想を一言で感想をお伝えすると「とても緊張感のある濃密で見ごたえのある舞台」だと言えると思います。1つ1つの言葉ややりとりに緊張感があり、この日の通し稽古のランタイムはおよそ2時間弱(おそらく本番までにもう少し短くなり、1時間50分ほどになるかと思いますが)、全くダレることなく、この段階で既に「芝居を観た」という充実感がありました。
そして、その緊張感の中心にいるのは、やはり一家の母、カカ役の白石加代子さんでした。
3人の息子たちをその愛で包み込もうとする母の凄みが随所に発揮され、家族をある意味で縛り付けようとする、その言動や行動に説得力が生まれ、「もうこれ以外は想像できない!」と思わせる"カカ像"が出来上がりつつあるようです。

― 家、家族を守ろうとする母
― 子供を縛り付けようとする母
― 子供に甘え縋る母

カカからは、これらの他にも、1人の母、そして1人の女性の色々な表情がのぞきます。
そして、物語の最終盤にはまた別の、それまでには見せなかった新しい表情が伺えます。そのシーンに、私は、鳥肌が立ちながら、胸を締め付けられる想いがしました。「女優・白石加代子の凄み、ここにあり」と思わされるシーンです。

通しで全体を続けて拝見してみて初めて気づいたことがあります。
それは、「この『愛情の内乱』は関係性の物語だ」ということです。だから、目の前の舞台上で交わされる言葉、生じる出来事の1つ1つが全てなのではなく、そこには常に人物同士の関係の網が綿密に張り巡らされています。
ですから、ご覧になられる際は、ぜひ目の前の会話や出来事の裏で、それぞれの人物がどのような想いを抱いているのか、どのような背景を背負っているのか、そういったことをご想像いただきながらご覧いただくと、より一層お楽しみいただけると思います。
それにしても通しを拝見して、第1回の稽古場レポートの際にも記しましたが、難しい戯曲だと改めて感じました。しかし、その戯曲を観ているこちらも苦しくなるような濃密さにキチンと仕上げてくるキャスト陣の皆さまにはただただ脱帽です。


ティーファクトリー『愛情の内乱』公演詳細:
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/05/post-45.html
チケットのご予約(一般):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=126&type=O
チケットのご予約(学生):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=127&type=O
『川村毅戯曲集 2014-2016』詳細ページ(論創社ホームページ):
http://ronso.co.jp/book/%E5%B7%9D%E6%9D%91%E6%AF%85%E6%88%AF%E6%9B%B2%E9%9B%86%E3%80%802014%E2%88%922016/

(写真提供:ティーファクトリー 文・構成:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)

 

『愛情の内乱』稽古場レポート(その3)


『愛情の内乱』稽古場レポート(その1)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その2)はこちら!



4/26(火)、約2週間ぶりに『愛情の内乱』の稽古場を訪れました。都内某所、吉祥寺から遠く離れた街、土地勘もへったくれもない完全アウェーの地なので、無駄にちょっと緊張します。

稽古場というのは、皆さんどういうイメージでしょうか?私の中ではワイワイガヤガヤ、喧々諤々のイメージがなきにしもあらずなのですが、実際に訪れてみると、そういう稽古場は結構少ないです。「意外と静か」です(もちろんそうじゃない現場も多々ありますが)。

さて、ティーファクトリーの稽古場はどうかというと、やっぱり「静か」です。休憩中などはもちろん雑談が交わされていたりもするのですが、それでも概ね結構静かです。でも、この日はもしかしたら前2回よりも静かだったかもしれません。
私としては「徐々に形になってきている段階で、川村さんから色々と細かく指示が飛ぶんだろう」みたいな稽古場風景を勝手にイメージしていたのですが、その手前勝手な想像と比較すると、とても「静か」な稽古模様でした。

ティーファクトリーの稽古場はあまり細かく切ったりはせず、ワンシーンごと、比較的長めにまわします。たまにシーンが始まって割とすぐに切って、修正をかける場合もありますが、それはまれなようで、この日もそういう場面は全然ありませんでした。

≪細かく止めて、細かく指示を出していく≫というのと対極にあるのが、演出家・川村毅のスタイルのようです。


川村氏は、途中ほとんど止めることもなく、シーンを粗方通させながら稽古を進めていきます。そして、切りのいいところまで終えたところで(これは流石にシーン丸々とは限りません。作家・川村氏は1シーンを比較的長めに設定されるタイプだと思います)、それまでの部分で気になったところを、個別に伝えていきます。でも、それもあまりたくさんではなく、2,3細かいニュアンスなどを中心に、大まかな方向性を調整したりという感じです。

これに役者さんはどう応じていくのだろうかと思ったのですが、同じシーンを繰り返すのを見て、すぐに気づいたことがあります。誰一人として、直前の返し稽古とは同じ演技プランで臨んでいないのです。 分かりやすく大きく演技プランを変えているのは笠木誠さんですね。思わず「すげー自由だな」と思ってしまうくらい、自由自在に毎回違うことをやってらっしゃいます。
「劇団でやっているとだんだんマンネリ化していくのが嫌だった」というようなことを、何かの折に川村氏から聞いた記憶があるのですが、第三エロチカ時代から今も引き続きカンパニーメンバーとして笠木さんと創作を続けているのは、この笠木さんの自由さ・貪欲さに、誰よりも川村氏が刺激を感じられるからなのかも知れません。
もちろん他の出演者の方々も、その笠木さんの自由さに応じたり、応じずに負けじと対抗してみたり、セリフや設定が変わる訳ではないのですが、観ている側からすると、「あー、そんな風にもできるんだ」とか「そういう解釈もできるのか」みたいな発見の連続です。そうしてどんどん新たな角度から光が当てられる稽古風景を、川村氏は、演出家席で足を組みながら、口元に手をあて、特に満足気でも不満気でもない、いつも通りややドスの利いた表情で眺めています。

≪ドラマ・ドクター≫の講座を吉祥寺シアターで行っていただいた時に、参加してくださった劇作家の方々との対話を見ていたときにも思ったのですが、川村氏は、相手を1人のアーティスト、1人のプロフェッショナルとして、そのやり方や考え方を最大限尊重されるタイプの方だと思います。劇作家としても、演出家としても、その姿勢は変わらないのでしょう。ティーファクトリーという、1つの作品を創作するうえで、ベストと思える俳優陣を集めて創作するという劇団時代とは違うスタイルだからこそできることなのかも知れません。

川村氏が現時点であまり細かく指示を出さないのも、俳優陣が提示してくる創意工夫を1つ1つ尊重し、彼らに多くを委ねている段階だということなのでしょう。いつも通りのややドスの利いた川村氏の表情は、彼らからの挑戦にビシビシ刺激を感じて、演出家として俳優陣に挑戦していく「闘いの表情」なのかも知れません。
川村さんのみならず、キャストの皆さんも、自分の出番でないときの稽古を見つめる眼差しが印象的でした。この眼差しの先に、舞台『愛情の内乱』が創り上げられていくのですね。

次回以降、更なる変貌を遂げているであろう稽古場の模様を引き続きお伝えして参ります。お楽しみに!(下の写真をクリックすると拡大します)



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※ポストパフォーマンストークのゲストが決定!
◎5/15(日)15:00
「時代を創った女優」
ゲスト:白石加代子さん&蘭妖子さん
アングラと呼ばれた時代。
"早稲田小劇場"の白石加代子さん。"天井棧敷"の蘭妖子さん。
時代を彩った二大女優が、いま語る"時代"。現在へ、そして未来の演劇へ。

◎5/19(木)15:00
「家族について」
ゲスト:穂村弘さん(歌人)
"兄弟"が多いのも大変だが、ひとりっこも大変?!
歌人・穂村弘さんを迎え、高度成長期に育ったひとりっこどうしによる、家族のお話。

◎5/21(土)18:30
「2016年のドストエフスキー」
ゲスト:島田雅彦さん(作家)
ロシア文学に造詣の深い作家・島田雅彦さんを迎え、
やさしく"カラマーゾフの兄弟"と"愛情の内乱の兄弟"の周辺について語ります。

上記の各公演終演後、短い休憩の後、ポストパフォーマンストークが行われます。
該当の各回にご来場のお客様は、公演後にそのままお席でお楽しみいただけます。


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稽古の休憩時に、白石加代子さんと蘭妖子さんが滑舌の話をなさっていて、こんな大女優になっても「滑舌」の話とかするのかと地味に感動したわけですが、その際に蘭さんが「寺山(修司)さんに『そのままの語りがいいんだ。滑舌など気にしなくていい』と言われていた」というエピソードを白石さんに語っておられました。そこに大場泰正さんが加わり「鈴木(忠志)さんは厳しそうですね」と白石さんに尋ね、そこから寺山修司さんと鈴木忠志さんの違いや、いくつかの興味深いエピソードが語られるというやりとりがありました。
個人的には、白石さんがおっしゃった「SCOTを出てから、私は『怖い(役を多く演じる)女優』になっちゃった」という一言と、蘭さんがご披露くださった「滑舌など気にしなくていいと私たち(=舞台出演者)に言っていた寺山さんが、ご自身の映画に出演する俳優には、その辺がきっちりした人を集めていた」というエピソードがツボでした。

5/15(日)の15:00の回終演後のポストパフォーマンストークは、川村氏がホストを務め、この白石さんと蘭さんのお二人をお迎えしてのトークです。「時代を創った女優」というテーマで、どのようなエピソードが語られるのか、非常に楽しみです。川村氏は中学生・高校生の頃から、天井桟敷も早稲田小劇場もご覧になっていたというマセガキだったそうなので、2016年の今からすると伝説に近いような日々のお話がたくさん聞け、若い方々には却って新鮮に感じられるかもしれません。


ティーファクトリー『愛情の内乱』公演詳細:
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/05/post-45.html
チケットのご予約(一般):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=126&type=O
チケットのご予約(学生):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=127&type=O

(文・構成・写真:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)