山本タカさん(くちびるの会)と想像/創造力




今年も早いものでもうほぼ5ヶ月が終了しようとしております。12分の5、41.666666......%(以下、6が無限に続きます。無限って何でしょう?)が終わってしまいます。切ないですね。もう2度と2016年5月という月はやって来ません。もっと言えば、この一瞬一瞬、この一秒一秒がもう2度とない時なのです。10代半ばの頃、そのことに気がついて怖くなり、1人泣いた記憶があります。
夏のような暑さを感じながら、それでももうそろそろ梅雨時で毎日雨だよなという警戒感を拭えない先日、6月一発目の公演、くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』の稽古場にお邪魔してきました。


今回が吉祥寺シアター初登場のくちびるの会さんですが、代表の山本タカさんが以前率いていた劇団「声を出すと気持ちいいの会」さんには、お隣の武蔵野芸能劇場で『富士の破れる日』を上演していただきました。なので、そこから約2年半の歳月を経て、吉祥寺シアターに帰ってきてもらったような、そんな心持ちでいます。



山本さんの作品の特徴を自分なりに一言で表すとすれば、


「『想像力』という名のオールを手に、
どんなことも起こり得る
無限の可能性を秘めた海に漕ぎ出す航海に出る感じ」


と答えます。ちょっと一言にしては長いですね。
私は歌人にはなれなそうです。



例えば、私がなにげなく食べているレタス&ハムサンドイッチ(という情報)からだけでさえ、私という人間を想像し、ドラマを作り上げてくれると思います。





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なんでこの人はレタス&ハムサンドイッチを食べているんだろう?
お腹が空いている?それなのにカツサンドでもミックスサンドでもなく、レタス&ハム?
なんでだろう......?
カツが嫌いなのか?それともヘルシー志向なのか?
確かに割と痩せている...。
もしかしたらなにか健康に気を遣わなくてはならない病気でも持っているのだろうか...?
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こんな風に(?)想像を積み重ねていった果てに、きっと現実の私とは大きく乖離した、それでいてどこか繋がりを感じられる存在として描かれるでしょう。それは彼の想像にはリアリティがないということではなく、たった1つしか情報がなくても、そこから想像の網を張り巡らせ、ちょうど蜘蛛の巣のようにドラマを構築し、新たな世界を創造するのが山本さんのスタイルだと思います。


『ホテル・ニューハンプシャー』『熊を放つ』など、アメリカの小説家ジョン・アーヴィングの書く、ドライブするように想像の世界を疾走し、目まぐるしく事件が起こり、どんどん自分が自分から離れていくようでありながら最後は自分に帰ってくる、そんなダイナミズムに満ちた物語に憧れを抱いていた私としては、作風は全く異なりながらも、山本さんの緻密かつ大胆な想像力がアーヴィングのそれに重なる気がして、憧れると言いますか羨ましいと言いますか妬ましいと言いますか、そんなどれでも当てはまるようなアンビヴァレントな感情を密かに、山本さんに抱いています。ここで書いたらもはや密かでもなんでもないですが。


劇場での仕事の都合上、稽古場にはほんの2時間ほどの滞在でしたが、その間、皆さんはとあるワンシーンを、綿密に稽古を重ねていらっしゃいました。繰り返されるシーン、そして演出の山本さんから俳優さんに出されるオーダーを聴きながら、改めてそんなことを感じていました。



私が最初に山本さんの作品を観はじめた頃は、もう少し演出的にはあっさりしているように感じていました。物語全体の濃密さは失われないようにしながらも、1つのシーン、1つの場面ごとはもう少し軽やかで、それがテンポ良く切り替わっていくという印象がありました。ですが、特に「くちびるの会」結成後は、1枚の絵の書き込みがグッと濃くなり、そこにこめられた情報量や感情の濃度が格段に上がっているのを感じます。一瞬一瞬に込められている想像の量が、格段に増えてきたのだと思います。


山本さんの作品を観ていると、なぜ「想像(=imagination)」と「創造(=creation)」という言葉が、どちらも日本語で「そうぞう」と言うのか、よく分かるような気がします。密接につながっているというか、きっとこの2つは同じことだったんでしょう。それをより明確に分けるために、いつしか別々の漢字が充てられたのではないかな、なんて想像してみます。


前回公演『カイコ』(SPACE雑遊)がやはり濃密で素晴らしく、観劇しながら「次、吉祥寺シアターでやってもらえて良かった」と思っていたのですが、僅か2時間、ワンシーンだけの稽古場でも、改めて同じ事を思いました。
『カイコ』が時間列車に乗って自らと向き合う旅の物語でしたので、そのベクトルは主に自分自身に向いていたと言えると思いますが、今回の吉祥寺シアターでの『ケムリ少年、挿し絵の怪人』は、江戸川乱歩「少年探偵団」シリーズの登場人物名を冠したキャラクターたちが躍動します。少年探偵団ですので、謎を暴こうとします。自ずと、想像力は他者へのベクトルとなり、劇場空間ともどもより広がりをもった世界が期待できるのではないでしょうか。
確実に言えることは、ご覧になるお客様も彼らの想像力にすべてを委ねるのではなく、ぜひ色々と想像を張り巡らせながら観ていただくと、ドラマが何倍にも広がり、よりお楽しみいただけるのではないかと思います。


ドラマ不遇ともいわれる現代の演劇界にあって、少し古風とも言える山本さんの戯曲、演出、ひいては彼の想像力が、どこまで羽ばたいていくのか、まずは吉祥寺シアターで、皆さま自身の目と耳と想像力でお確かめいただければ幸いです。


くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』は、吉祥寺シアターで6/3(金)~7(火)まで上演いたします。6/4(土)の回が少しお席少なくなっているようです。ご予約はどうぞお早めに。皆様と劇場でお目にかかれるのを楽しみにしております。私も初日を迎えるのが待ち遠しいです。
私のように待ち遠しい方は、公式PVが公開されていますので、是非そちらをご覧になってお待ち下さい。



くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』公演PV

くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』公演情報
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/03/post-46.html
チケットのご予約はこちら!(一般)
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=128&type=O
U-29(29歳以下)の方はこちら!
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=129&type=O




(文・構成・写真:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)