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山本タカさん(くちびるの会)と想像/創造力




今年も早いものでもうほぼ5ヶ月が終了しようとしております。12分の5、41.666666......%(以下、6が無限に続きます。無限って何でしょう?)が終わってしまいます。切ないですね。もう2度と2016年5月という月はやって来ません。もっと言えば、この一瞬一瞬、この一秒一秒がもう2度とない時なのです。10代半ばの頃、そのことに気がついて怖くなり、1人泣いた記憶があります。
夏のような暑さを感じながら、それでももうそろそろ梅雨時で毎日雨だよなという警戒感を拭えない先日、6月一発目の公演、くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』の稽古場にお邪魔してきました。


今回が吉祥寺シアター初登場のくちびるの会さんですが、代表の山本タカさんが以前率いていた劇団「声を出すと気持ちいいの会」さんには、お隣の武蔵野芸能劇場で『富士の破れる日』を上演していただきました。なので、そこから約2年半の歳月を経て、吉祥寺シアターに帰ってきてもらったような、そんな心持ちでいます。



山本さんの作品の特徴を自分なりに一言で表すとすれば、


「『想像力』という名のオールを手に、
どんなことも起こり得る
無限の可能性を秘めた海に漕ぎ出す航海に出る感じ」


と答えます。ちょっと一言にしては長いですね。
私は歌人にはなれなそうです。



例えば、私がなにげなく食べているレタス&ハムサンドイッチ(という情報)からだけでさえ、私という人間を想像し、ドラマを作り上げてくれると思います。





............
なんでこの人はレタス&ハムサンドイッチを食べているんだろう?
お腹が空いている?それなのにカツサンドでもミックスサンドでもなく、レタス&ハム?
なんでだろう......?
カツが嫌いなのか?それともヘルシー志向なのか?
確かに割と痩せている...。
もしかしたらなにか健康に気を遣わなくてはならない病気でも持っているのだろうか...?
............


こんな風に(?)想像を積み重ねていった果てに、きっと現実の私とは大きく乖離した、それでいてどこか繋がりを感じられる存在として描かれるでしょう。それは彼の想像にはリアリティがないということではなく、たった1つしか情報がなくても、そこから想像の網を張り巡らせ、ちょうど蜘蛛の巣のようにドラマを構築し、新たな世界を創造するのが山本さんのスタイルだと思います。


『ホテル・ニューハンプシャー』『熊を放つ』など、アメリカの小説家ジョン・アーヴィングの書く、ドライブするように想像の世界を疾走し、目まぐるしく事件が起こり、どんどん自分が自分から離れていくようでありながら最後は自分に帰ってくる、そんなダイナミズムに満ちた物語に憧れを抱いていた私としては、作風は全く異なりながらも、山本さんの緻密かつ大胆な想像力がアーヴィングのそれに重なる気がして、憧れると言いますか羨ましいと言いますか妬ましいと言いますか、そんなどれでも当てはまるようなアンビヴァレントな感情を密かに、山本さんに抱いています。ここで書いたらもはや密かでもなんでもないですが。


劇場での仕事の都合上、稽古場にはほんの2時間ほどの滞在でしたが、その間、皆さんはとあるワンシーンを、綿密に稽古を重ねていらっしゃいました。繰り返されるシーン、そして演出の山本さんから俳優さんに出されるオーダーを聴きながら、改めてそんなことを感じていました。



私が最初に山本さんの作品を観はじめた頃は、もう少し演出的にはあっさりしているように感じていました。物語全体の濃密さは失われないようにしながらも、1つのシーン、1つの場面ごとはもう少し軽やかで、それがテンポ良く切り替わっていくという印象がありました。ですが、特に「くちびるの会」結成後は、1枚の絵の書き込みがグッと濃くなり、そこにこめられた情報量や感情の濃度が格段に上がっているのを感じます。一瞬一瞬に込められている想像の量が、格段に増えてきたのだと思います。


山本さんの作品を観ていると、なぜ「想像(=imagination)」と「創造(=creation)」という言葉が、どちらも日本語で「そうぞう」と言うのか、よく分かるような気がします。密接につながっているというか、きっとこの2つは同じことだったんでしょう。それをより明確に分けるために、いつしか別々の漢字が充てられたのではないかな、なんて想像してみます。


前回公演『カイコ』(SPACE雑遊)がやはり濃密で素晴らしく、観劇しながら「次、吉祥寺シアターでやってもらえて良かった」と思っていたのですが、僅か2時間、ワンシーンだけの稽古場でも、改めて同じ事を思いました。
『カイコ』が時間列車に乗って自らと向き合う旅の物語でしたので、そのベクトルは主に自分自身に向いていたと言えると思いますが、今回の吉祥寺シアターでの『ケムリ少年、挿し絵の怪人』は、江戸川乱歩「少年探偵団」シリーズの登場人物名を冠したキャラクターたちが躍動します。少年探偵団ですので、謎を暴こうとします。自ずと、想像力は他者へのベクトルとなり、劇場空間ともどもより広がりをもった世界が期待できるのではないでしょうか。
確実に言えることは、ご覧になるお客様も彼らの想像力にすべてを委ねるのではなく、ぜひ色々と想像を張り巡らせながら観ていただくと、ドラマが何倍にも広がり、よりお楽しみいただけるのではないかと思います。


ドラマ不遇ともいわれる現代の演劇界にあって、少し古風とも言える山本さんの戯曲、演出、ひいては彼の想像力が、どこまで羽ばたいていくのか、まずは吉祥寺シアターで、皆さま自身の目と耳と想像力でお確かめいただければ幸いです。


くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』は、吉祥寺シアターで6/3(金)~7(火)まで上演いたします。6/4(土)の回が少しお席少なくなっているようです。ご予約はどうぞお早めに。皆様と劇場でお目にかかれるのを楽しみにしております。私も初日を迎えるのが待ち遠しいです。
私のように待ち遠しい方は、公式PVが公開されていますので、是非そちらをご覧になってお待ち下さい。



くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』公演PV

くちびるの会『ケムリ少年、挿し絵の怪人』公演情報
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/03/post-46.html
チケットのご予約はこちら!(一般)
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=128&type=O
U-29(29歳以下)の方はこちら!
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=129&type=O




(文・構成・写真:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)



『愛情の内乱』稽古場レポート(その4)


『愛情の内乱』稽古場レポート(その1)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その2)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その3)はこちら!


まずはお知らせから。
すでにお知らせしております3回のアフタートークに加えて、終演後に「ミニミニトーク」なるものの開催が決定しました!5/13(金)、5/16(月)、5/17(火)、5/23(月)の、各日19:30の回終演後に開催いたします。出演は、

5/13(金):末っ子・ジン役 末原拓馬さん(写真中左)
5/16(月):長男・アニ役 大場泰正さん(写真右)
5/17(火):ハル役 笠木誠さん(写真左)
5/23(月):次男・ドス役 兼崎健太郎さん(写真中右)


です!

母について、家族について描かれたこの舞台に「息子たち」として向き合っている俳優4人が、俳優として、そして1人の息子として、母について語ります。
終演後5分程度の短い時間ではございますが、普段は見ることのできない俳優陣の「生の顔」をお楽しみいただけるかと思います。ご観劇の日程を迷われている方は、ぜひこの4回のいずれかをオススメします!


そして、お知らせその2。
なんと『生きると生きないのあいだ』『ドラマ・ドクター』『愛情の内乱』の、吉祥寺シアターで上演の、川村毅氏の新作3部作が『川村毅戯曲集 2014-2016』として論創社より発売されることが決定しました!パチパチー!!(拍手)詳細はこちらをご覧ください。
5/15の書店での発売に先がけて、『愛情の内乱』の公演時に劇場ロビーにて本戯曲集の先行発売も行われます。吉祥寺シアター公演のために執筆された戯曲が、1冊の本として纏められるのは、劇場としても感慨深いものがあります。全作品をご覧いただいた方もそうでない方も、ぜひお手に取ってお読みください!


閑話休題。
『愛情の内乱』稽古場レポートはこれが最終回です。今回は、公演直前の通しげいこの模様をお届けいたします。
世間はGW真っ只中、公演まで1週間となり緊張感の高まるこどもの日の5/5に、ティーファクトリー『愛情の内乱』通し稽古にお邪魔してきました。初めて通しで鑑賞した感想を一言で感想をお伝えすると「とても緊張感のある濃密で見ごたえのある舞台」だと言えると思います。1つ1つの言葉ややりとりに緊張感があり、この日の通し稽古のランタイムはおよそ2時間弱(おそらく本番までにもう少し短くなり、1時間50分ほどになるかと思いますが)、全くダレることなく、この段階で既に「芝居を観た」という充実感がありました。
そして、その緊張感の中心にいるのは、やはり一家の母、カカ役の白石加代子さんでした。
3人の息子たちをその愛で包み込もうとする母の凄みが随所に発揮され、家族をある意味で縛り付けようとする、その言動や行動に説得力が生まれ、「もうこれ以外は想像できない!」と思わせる"カカ像"が出来上がりつつあるようです。

― 家、家族を守ろうとする母
― 子供を縛り付けようとする母
― 子供に甘え縋る母

カカからは、これらの他にも、1人の母、そして1人の女性の色々な表情がのぞきます。
そして、物語の最終盤にはまた別の、それまでには見せなかった新しい表情が伺えます。そのシーンに、私は、鳥肌が立ちながら、胸を締め付けられる想いがしました。「女優・白石加代子の凄み、ここにあり」と思わされるシーンです。

通しで全体を続けて拝見してみて初めて気づいたことがあります。
それは、「この『愛情の内乱』は関係性の物語だ」ということです。だから、目の前の舞台上で交わされる言葉、生じる出来事の1つ1つが全てなのではなく、そこには常に人物同士の関係の網が綿密に張り巡らされています。
ですから、ご覧になられる際は、ぜひ目の前の会話や出来事の裏で、それぞれの人物がどのような想いを抱いているのか、どのような背景を背負っているのか、そういったことをご想像いただきながらご覧いただくと、より一層お楽しみいただけると思います。
それにしても通しを拝見して、第1回の稽古場レポートの際にも記しましたが、難しい戯曲だと改めて感じました。しかし、その戯曲を観ているこちらも苦しくなるような濃密さにキチンと仕上げてくるキャスト陣の皆さまにはただただ脱帽です。


ティーファクトリー『愛情の内乱』公演詳細:
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/05/post-45.html
チケットのご予約(一般):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=126&type=O
チケットのご予約(学生):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=127&type=O
『川村毅戯曲集 2014-2016』詳細ページ(論創社ホームページ):
http://ronso.co.jp/book/%E5%B7%9D%E6%9D%91%E6%AF%85%E6%88%AF%E6%9B%B2%E9%9B%86%E3%80%802014%E2%88%922016/

(写真提供:ティーファクトリー 文・構成:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)

 

『愛情の内乱』稽古場レポート(その3)


『愛情の内乱』稽古場レポート(その1)はこちら!
『愛情の内乱』稽古場レポート(その2)はこちら!



4/26(火)、約2週間ぶりに『愛情の内乱』の稽古場を訪れました。都内某所、吉祥寺から遠く離れた街、土地勘もへったくれもない完全アウェーの地なので、無駄にちょっと緊張します。

稽古場というのは、皆さんどういうイメージでしょうか?私の中ではワイワイガヤガヤ、喧々諤々のイメージがなきにしもあらずなのですが、実際に訪れてみると、そういう稽古場は結構少ないです。「意外と静か」です(もちろんそうじゃない現場も多々ありますが)。

さて、ティーファクトリーの稽古場はどうかというと、やっぱり「静か」です。休憩中などはもちろん雑談が交わされていたりもするのですが、それでも概ね結構静かです。でも、この日はもしかしたら前2回よりも静かだったかもしれません。
私としては「徐々に形になってきている段階で、川村さんから色々と細かく指示が飛ぶんだろう」みたいな稽古場風景を勝手にイメージしていたのですが、その手前勝手な想像と比較すると、とても「静か」な稽古模様でした。

ティーファクトリーの稽古場はあまり細かく切ったりはせず、ワンシーンごと、比較的長めにまわします。たまにシーンが始まって割とすぐに切って、修正をかける場合もありますが、それはまれなようで、この日もそういう場面は全然ありませんでした。

≪細かく止めて、細かく指示を出していく≫というのと対極にあるのが、演出家・川村毅のスタイルのようです。


川村氏は、途中ほとんど止めることもなく、シーンを粗方通させながら稽古を進めていきます。そして、切りのいいところまで終えたところで(これは流石にシーン丸々とは限りません。作家・川村氏は1シーンを比較的長めに設定されるタイプだと思います)、それまでの部分で気になったところを、個別に伝えていきます。でも、それもあまりたくさんではなく、2,3細かいニュアンスなどを中心に、大まかな方向性を調整したりという感じです。

これに役者さんはどう応じていくのだろうかと思ったのですが、同じシーンを繰り返すのを見て、すぐに気づいたことがあります。誰一人として、直前の返し稽古とは同じ演技プランで臨んでいないのです。 分かりやすく大きく演技プランを変えているのは笠木誠さんですね。思わず「すげー自由だな」と思ってしまうくらい、自由自在に毎回違うことをやってらっしゃいます。
「劇団でやっているとだんだんマンネリ化していくのが嫌だった」というようなことを、何かの折に川村氏から聞いた記憶があるのですが、第三エロチカ時代から今も引き続きカンパニーメンバーとして笠木さんと創作を続けているのは、この笠木さんの自由さ・貪欲さに、誰よりも川村氏が刺激を感じられるからなのかも知れません。
もちろん他の出演者の方々も、その笠木さんの自由さに応じたり、応じずに負けじと対抗してみたり、セリフや設定が変わる訳ではないのですが、観ている側からすると、「あー、そんな風にもできるんだ」とか「そういう解釈もできるのか」みたいな発見の連続です。そうしてどんどん新たな角度から光が当てられる稽古風景を、川村氏は、演出家席で足を組みながら、口元に手をあて、特に満足気でも不満気でもない、いつも通りややドスの利いた表情で眺めています。

≪ドラマ・ドクター≫の講座を吉祥寺シアターで行っていただいた時に、参加してくださった劇作家の方々との対話を見ていたときにも思ったのですが、川村氏は、相手を1人のアーティスト、1人のプロフェッショナルとして、そのやり方や考え方を最大限尊重されるタイプの方だと思います。劇作家としても、演出家としても、その姿勢は変わらないのでしょう。ティーファクトリーという、1つの作品を創作するうえで、ベストと思える俳優陣を集めて創作するという劇団時代とは違うスタイルだからこそできることなのかも知れません。

川村氏が現時点であまり細かく指示を出さないのも、俳優陣が提示してくる創意工夫を1つ1つ尊重し、彼らに多くを委ねている段階だということなのでしょう。いつも通りのややドスの利いた川村氏の表情は、彼らからの挑戦にビシビシ刺激を感じて、演出家として俳優陣に挑戦していく「闘いの表情」なのかも知れません。
川村さんのみならず、キャストの皆さんも、自分の出番でないときの稽古を見つめる眼差しが印象的でした。この眼差しの先に、舞台『愛情の内乱』が創り上げられていくのですね。

次回以降、更なる変貌を遂げているであろう稽古場の模様を引き続きお伝えして参ります。お楽しみに!(下の写真をクリックすると拡大します)



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※ポストパフォーマンストークのゲストが決定!
◎5/15(日)15:00
「時代を創った女優」
ゲスト:白石加代子さん&蘭妖子さん
アングラと呼ばれた時代。
"早稲田小劇場"の白石加代子さん。"天井棧敷"の蘭妖子さん。
時代を彩った二大女優が、いま語る"時代"。現在へ、そして未来の演劇へ。

◎5/19(木)15:00
「家族について」
ゲスト:穂村弘さん(歌人)
"兄弟"が多いのも大変だが、ひとりっこも大変?!
歌人・穂村弘さんを迎え、高度成長期に育ったひとりっこどうしによる、家族のお話。

◎5/21(土)18:30
「2016年のドストエフスキー」
ゲスト:島田雅彦さん(作家)
ロシア文学に造詣の深い作家・島田雅彦さんを迎え、
やさしく"カラマーゾフの兄弟"と"愛情の内乱の兄弟"の周辺について語ります。

上記の各公演終演後、短い休憩の後、ポストパフォーマンストークが行われます。
該当の各回にご来場のお客様は、公演後にそのままお席でお楽しみいただけます。


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稽古の休憩時に、白石加代子さんと蘭妖子さんが滑舌の話をなさっていて、こんな大女優になっても「滑舌」の話とかするのかと地味に感動したわけですが、その際に蘭さんが「寺山(修司)さんに『そのままの語りがいいんだ。滑舌など気にしなくていい』と言われていた」というエピソードを白石さんに語っておられました。そこに大場泰正さんが加わり「鈴木(忠志)さんは厳しそうですね」と白石さんに尋ね、そこから寺山修司さんと鈴木忠志さんの違いや、いくつかの興味深いエピソードが語られるというやりとりがありました。
個人的には、白石さんがおっしゃった「SCOTを出てから、私は『怖い(役を多く演じる)女優』になっちゃった」という一言と、蘭さんがご披露くださった「滑舌など気にしなくていいと私たち(=舞台出演者)に言っていた寺山さんが、ご自身の映画に出演する俳優には、その辺がきっちりした人を集めていた」というエピソードがツボでした。

5/15(日)の15:00の回終演後のポストパフォーマンストークは、川村氏がホストを務め、この白石さんと蘭さんのお二人をお迎えしてのトークです。「時代を創った女優」というテーマで、どのようなエピソードが語られるのか、非常に楽しみです。川村氏は中学生・高校生の頃から、天井桟敷も早稲田小劇場もご覧になっていたというマセガキだったそうなので、2016年の今からすると伝説に近いような日々のお話がたくさん聞け、若い方々には却って新鮮に感じられるかもしれません。


ティーファクトリー『愛情の内乱』公演詳細:
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/05/post-45.html
チケットのご予約(一般):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=126&type=O
チケットのご予約(学生):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=127&type=O

(文・構成・写真:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)

 

『愛情の内乱』稽古場レポート(その2)


『愛情の内乱』稽古場レポート(その1)はこちら!


顔合わせから読み合わせの2日間が終わり、1日オフを挟んでの4月12日(火)、読み合わせが続いておりました。ただ、稽古初日よりも細かな指示や確認が入ります。その中で、川村氏が繰り返し発する言葉がありました。

「親子の間の、複雑な、一筋縄ではいかない感情」

このことを、川村氏は稽古初日から強調しており、この「感情をどう見せるか」ということに、今回かなり気を遣っていることが伺えます。

口では「嫌い」だ「うざい」だと言っても、心の中はそういった負の感情が100%とは限らず、どこか精神的に親子の繋がり、家族の繋がりが残っていて、どこか離れがたく思っていたりする。しかもそのバランスは絶えず揺れ動いている。反対に言えば表面では大切に思っている素振りを見せても、心の中では少し距離を置きたい気持ちもあったりするでしょう。親子や家族に限った話ではないのかも知れませんが、家族や親子って離れて暮らしていて、たとえ何年も会っていなくても、それでもなんとなく「家族」「親子」の感覚は残り続けていて、これはやはり他の関係とは少し違う特殊な関係のように思われます。

今回の『愛情の内乱』は、とある一家の、親と3兄弟が核となります。
母から3兄弟への想い、3兄弟から母への想い。もちろん3兄弟それぞれで母との対峙の仕方は異なりますし、兄弟間での立ち位置も異なります。母も兄弟1人1人に違う想いを抱きながら、それでいて3人に共通する想いも抱いていたりするのでしょう。読み合わせの段階から早くも、親子のやりとり、そして兄弟間でのやりとりに、目には見えないし、文字にも起こされていないけれども、そこには確かにヒリヒリとした緊張感が漂っています。

そして、演出家・川村毅がこのやりとりに細かくチューニングを施していきます。

「ここはもっとぽんぽんと会話が進んで欲しい」
「お互い感情が出過ぎている」
「今のはどういう感情で臨んでいるんだ?」


「あまり口を出さない」稽古初日から比べると、細かくストップがかかり、川村氏からキャスト陣への指示や質問が飛びます。それを受けキャストの演技はその都度変化を遂げていき、読み合わせも3週目に入った13日(水)には、前日の読み合わせと比べても俄然密度が濃くなったのを感じました。


白石加代子さん演じる母・カカの堂々たる存在感、影を背負いながら何処か不思議な色気を漂わせる、大場泰正さん演じる長男・アニ、全てを見通すように淡々と語りながらも、その裏側に複雑な感情を抱いている次男・ドス役の兼崎さん、天性の可愛らしさと芯の強さ、そして真っ直ぐさ故の葛藤を余すことなく発揮する三男・ジン役の末原さん、ティーファクトリーの誇る飛び道具とでもいいましょうか、その独特の存在感は一度味わうと外すことの出来ない笠木誠さん(ドキュメンタリーを撮影に来た男・ハル役)は、今回も最初の読み合わせから1人異質な空気を発していましたし、謎の家政婦・トラを演じる蘭妖子さんは神出鬼没という言葉がぴったりはまる、文字通り「謎」な存在。
それぞれのキャラクターの方向性がくっきりと明確になっていき、作品がより立体的になってきたところで、荒立ち稽古が開始!

立ち稽古でも最初はあまり細かい指示は飛びませんが、川村氏の戯曲には出ハケについて細かい指定が記されていないので、それに関しては「あっちから出てきましょう」「そっちにハケて」などの指示が出ます。まだまだ皆さん台本を持ちつつではありましたが、実際に身体の動きがつくと、役者の皆さんの演技もどんどん変わっていき、本読みのときとはまた違うイメージが湧き上がってきます。
まだまだ立ち稽古の初日の段階、美術などもほとんどない状態ですので、ここからどのような舞台空間ができあがっていくのか、台本を読んだ時に私が抱いた安易な想像はとっくに打ち破られ、全く想像がつかなくなってきました。こういったところに私個人としては演劇の醍醐味を感じます。
次回以降、更なる変貌を遂げているであろう稽古場の模様を引き続きお伝えして参ります。お楽しみに!



※チケット好評予約受付中!
全体的にお昼の回の方がお席少なくなっております。少しでも良いお席で観たいという方には、夜の回をお薦め致します。吉祥寺ならご観劇後でもレストラン等、多くの飲食店が営業しております。吉祥寺でディナーをお召し上がりいただいてお帰りになるのもお薦めです。


ティーファクトリー『愛情の内乱』公演詳細:
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/05/post-45.html
チケットのご予約(一般):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=126&type=O
チケットのご予約(学生):
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=127&type=O

(文・構成・写真:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)

 

『愛情の内乱』稽古場レポート(その1)

4/10(日)午後2時、ティーファクトリー最新作『愛情の内乱』の稽古初日がスタートするということで、稽古場にお邪魔して参りました。2013年度(2014年3月)に《吉祥寺シアター シェイクスピアシリーズ》として『荒野のリア』を上演していただいて以来、ティーファクトリーの新作公演も3年連続4本目です。

この『愛情の内乱』は、2014年に劇作家生活30周年を迎えた川村毅氏が、『生きると生きないのあいだ』『ドラマ・ドクター』に続き、吉祥寺シアターで創作・上演する3年連続の書き下ろし新作戯曲第3作となります。公演まで早くも1ヶ月をきりましたが、今後公演初日までの間、定期的に稽古場にお邪魔し、稽古場の模様をこのような形で皆様にお伝えしようと思います。


稽古初日は、全キャストの方と多数のスタッフの皆様が揃ったところで、プロデューサーの平井さんから各々の簡単な紹介があり、そして川村氏からキャストの皆様へ戯曲についてのお話が。その中で

「僕はこの作品の劇作家でもあるから、劇作家としての正解のようなものは確かに(川村氏の)頭の中にあるけれども、それに合わせるのではなく、それを超えていくようなものを演出家として稽古場で一緒に探していきたい」

というようなことを、川村氏がおっしゃっていたのがまず一つ印象に残りました。なぜかと言うと、丁寧に装丁、製本された台本を読ませていただき、まず私が感じたことが「とても難しそうな台本だ」ということでした。これは内容が理解できないとか、あまりにも不条理だとか哲学的だとか専門用語が連発される、とかそういうことではありません。むしろそういった難しさとは無縁であるが故の難しさをこの戯曲は孕んでいると感じました。

それは、川村氏の言葉にもある通り、そこに劇作家・川村毅の世界観が屹立しているということにあります。そして、それがあまりにも明確であるが故に、キャストの皆様は、その世界観に引きずられすぎることなく、いかに戯曲の持つポテンシャルを広げられるか、普通にやっても十分面白く、一つの明確な完成形を有している戯曲の可能性をいかに広げられるか。川村氏からキャスト陣へ-そしてもちろんスタッフ陣へも-の挑戦状とも思える作品です。と同時に、劇作家・川村毅から演出家・川村毅への挑戦状でもあるのでしょう。冒頭の川村氏の言葉は自分への言葉でもあるように聞こえました。


受けて立つキャスト陣は、白石加代子さん、蘭妖子さんの、川村氏よりもキャリアの長いベテラン勢から、兼崎健太郎さん、末原拓馬さんの三十代前半の若手俳優まで、全く異なる演劇観をもった俳優陣が集結するのも、ティーファクトリーならではというところ。彼らが川村氏からの挑戦状にいかに受けて立つのか、実は少しドキドキしながら稽古場に立ちあっていました。

「とりあえず全部一通り読んでみましょう。あまり口出しはしません」という川村氏のコメントのもと、稽古はまずは本読みからスタートしました。
最初の本読み、キャストの皆様もまだまだ戯曲の世界と馴染んでいないだろうし、どんな感じになるかなと思ったのですが、そこはさすが手練手管の俳優陣の集まり、この時点で早くもすっと物語の世界が立ち上がってきます。チラシの紹介文にもあるような「遠い未来の近い過去」「とある地方の広い家」がふと、まぶたの裏側に浮かび上がってきます。先が見通せないくらい広い庭がある、どこかの地方の家の佇まい、そこに暮らす家の人となりや生活の中に、私自身が身を置いているかのような感覚。自宅で台本を読んだ時に見えてきたものとは違う風景が、読み合わせの現場には立ち上がっていました。

とはいえ、まだまだ本読みの段階、立ち稽古が始まり、台本が手から離れ、稽古を重ねていくうちに、どんどんと変わっていくことでしょう。その模様を時々、皆様にお伝えしていきます。


稽古の途中でもう一つ、川村さんの指示で気になったことがあったのですが、それはまた次回、お届けします。



(写真提供:ティーファクトリー、文・構成:大川智史〈武蔵野文化事業団〉)



ティーファクトリー『愛情の内乱』公演詳細: http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/05/post-45.html
チケットのご予約(一般) https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=126&type=O
チケットのご予約(学生) https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=127&type=O

 

カムヰヤッセン『レドモン』稽古場レポート&北川大輔さんとのインタビュー



2016年もあっという間に4分の1が終わろうとしています。年度末でバタバタしている方、4月からの新生活を控えてソワソワしている方、もうすぐ3月が終わりますよー。そんな中、吉祥寺シアターでは年度内の最終公演、ミクニヤナイハラプロジェクト『東京ノート』が終演し、いよいよ4/6(水)からカムヰヤッセン『レドモン』が始まります。
昨日『レドモン』の稽古場にお邪魔してきました!稽古場の模様を、写真と脚本・演出の北川氏へのインタビューでお送りします。


北川氏との一問一答

―今回は、舞台美術が面白いですね。どういったことを意識されていますか?

北川「吉祥寺シアターの空間の面白さは縦の高さと、あとは奥行きにあると思っています。今回の舞台プランは、その特徴を生かすことに主眼を置いています。その分、横は少しカットしました」



―どう「横をカットしている」のか、劇場に足を運んでいただき驚いていただきたいですね。台本も7年前とは大きく変わりましたね。この改訂はどういったことを意識されていますか?

北川「やっぱり時代が大きく変わってしまいましたよね、この7年の間で」



―チラシやホームページにもそんなコメントを寄せてらっしゃいますね。

北川「ついこないだもブリュッセルでテロがありましたよね。テロ自体はもちろん7年前にもあったんですけど、カルバラでテロがあって300人亡くなったときよりも、ブリュッセルのテロで60人が死亡って聞いちゃうとどうしても、テロを近く感じちゃいますよね」



―日本にいる多くの人は確かにそういう感覚をおぼえていると思います。

北川「っていう時に、この『近く感じる感覚』っていうのはなんだろう、って思ったんです。イラクの都市と欧州の都市では、圧倒的に後者のほうが自分に近い気になっている。その時自分はどこにボーダーを引いているのか、って言うことへの疑いを強く持つようになったんです。ここに、『区別』することの正体を探るヒント的なものがあるんじゃないかって思っています」



―発端で言うと昨年のパリのテロの時でしょうか。あの時は、SNS上でプロフィール写真にトリコロールを重ねて哀悼の意を示す動きが盛んになり、賛否両論が巻き起こりましたね。否定的な見解は主に、その「区別」への違和感に端を発するものであったと思います。

北川「『レドモン』の再演自体は、パリのテロ以前に決めていたんですけどね。でもいざこうやって作っていく中では、そういったことを意識しないわけにはいかないですね」



―ご自身の中でそのような変化はどのように表れていると思いますか?

北川「『レドモン』のテーマというか、この作品を書くにあたっては、『人は人を区別/差別する心をどうやって克服していくのか』というのがあります。初演の時は、なんで世界は変わらないのだろう、なんで差別をするのだろうと、ちょうど初演の主人公夫婦の子供のように、変わらない世の中に憤っているような感じでしたが、今回再演にあたって、台本を全面リテイクしていて気付いたのは、僕自身が子供から大人になったということです。今回は完全に(主人公の)立川の気持ちに寄り添って書いています。それは世界を変えられないことを嘆いたり憤ったりするのではなくて、『自分が社会を、世界を変えることができるんだ』と思って書いていられているということだと思います」



―それは大きな変化ですね。主人公のとる行動も、確かにおっしゃる通り、初演のとき以上に、自分で世界を変えていこうという意志がはっきり表れていますよね。大きな変化と言えば、けいこ場の雰囲気もだいぶ昔とは変わりましたね。こういっては失礼かもしれませんが、だいぶ民主的になりましたね(笑)

北川「うん、それはもうだいぶ変わりました。『レドモン』の初演の頃が一番きつかったかも知れないです。『俺が死ぬかお前が死ぬか』みたいな感じでやってましたね、あの頃は(苦笑)。今は周りが率先してやってくれるので、それに素直に乗っかっています。メンバーが代わってきたことが、いい具合に作用していると思います」




―メンバーと言えば、劇団員のみならず、キャストも初演時とはほとんど変わっていますね。両方出ているのは劇団員の小島(明之)さんだけです。でも、この新しいキャスト陣は、配役の妙も含め、すごくはまっていますね

北川「はい、今回、初演からは大幅にキャストが代わっていますが、すごくいいメンバーがそろったと思っています。手練れが揃っていると思います。自信をもって吉祥寺シアターの空間に挑める面子だと思います」

 



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数名のスタッフが見つめる中、この日は初めての通し稽古。
皆が真剣な眼差しで見つめるが、その分、舞台上での面白さにも敏感で、題材のシリアスさを考えると予想以上に多くの笑いが起こった、最初の通し稽古であった。とはいえ、脚本・演出の北川氏からすれば思惑通りだろう。ただ暗いだけ、重いだけにはしたくない。きっちり笑いの起きる明るいシーンを作っていきたいと、通し稽古前に語ってくれていた。
初演との大きな違いにも驚いたが、それ以上に現時点での完成度の高さにも驚いた。北川氏が自信を持って語っていたように、キャスト陣は皆とても言葉と要求が多い北川台本を咀嚼し、それぞれの個性を生かしていた。
ユニークなだけでなく、さまざま意味が付与され考え抜かれた舞台美術の上で、キャスト陣が更にブラッシュアップされた演技で、どう躍動するのか、今から楽しみである。
通し稽古後に北川氏がキャスト陣に贈った言葉を締めに共有しよう。

「これは誰か限られたキャストが語りきるという構成の台本ではなくて、キャスト同士で言葉を、台詞をパスして繋いでいく意識をより高めてほしい。その繋ぎをもっともっと意識すれば、よりタイトに密度の濃いものに仕上がるはず」
「僕は、この作品で、間でなにかを伝える、というようなことをしようと思っていない。むしろ(台詞を)言って言って、喋り倒す、その怒涛の言葉の中で意味に向かっていく作品にしたい」
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「違う」ということをいかに乗り越えていくのかを根幹に据えた、カムヰヤッセン第13回公演『レドモン』、公演は約1週間後の4/6(水)から4/10(日)まで上演です。激動の現代社会・世界情勢を共有する皆様にぜひご覧いただきたい作品です。チケットは現在好評予約受付中です。CoRich舞台芸術まつり!2016春一次審査通過作品です。ぜひ劇場に足をお運びいただき、応援して下さいね!多くのお客様のご来場をお待ち申し上げております。


カムヰヤッセン第13回公演『レドモン』公演詳細:
http://www.musashino-culture.or.jp/k_theatre/eventinfo/2016/01/post-44.html
チケット予約はこちらから:
https://yyk1.ka-ruku.com/musashino-t/index.jsp?id=120&type=O
カムヰヤッセン公式Webサイト:
http://kamuyyassen.daa.jp/index.html
稽古場写真をもっとご覧になりたい方はこちら(吉祥寺シアターFacebookページ):
https://www.facebook.com/media/set/?set=a.957198941042099.1073741877.205085892920078&type=3&uploaded=14


(文・構成:大川智史[武蔵野文化事業団])