カミュの横顔

 

投稿者:I.D

1月にシアターでマームとジプシーの「あ、ストレンジャー」が上演されます。今年、若手劇作家の登竜門「岸田國士戯曲賞」を受賞した藤田貴大さんの世界を堪能出来る舞台は必見です。

 

この「あ、ストレンジャー」は藤田さんのオリジナル作品ですが、カミュの「異邦人」を原案にしているとのことです。そのカミュの横顔を一つ。カミュというと哲学的とか、政治的とかいう印象があると思いますが、彼は“演劇人”でもあったのです。安部公房、三島由紀夫など演劇に“入れ込んだ”作家がいますが、アルベール・カミュもその一人です。

 

彼は若く無名の頃から「労働座」とか「仲間座」といった劇団を立ち上げ、シングの「西の国の人気者」だとか、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」(カミュ自身がイワンを演じた)、デ・ローハスの「ラ・セレスティーナ」などを上演しており、やがて戯曲の執筆を行っていきます。

 

一番有名な戯曲は「カリギュラ」でしょう。若きローマ皇帝カリギュラが最愛の妹を失い大ショック、そして(ちょっと哲学的に)狂っていって…というお話。創作年代や内容などからしても「異邦人」と深く結びつく作品です。「カリギュラ」初演時の主役はかの絶世の美男俳優ジェラール・フィリップが務めています。このころジェラール・フィリップはまだコンセルヴァトワールの学生でした。役を決める前、カミュはコンセルヴァトワールの卒業試験を受けるジェラール・フィリップを観に行き、彼のことを非常に気に入ってしまったそうです。

 

それから「誤解」「戒厳令」、「正義の人々」と続くほかに翻案もしており、フォークナー原作「尼僧への鎮魂歌」、ドストエフスキー原作「悪霊」、カルデロン・デ・ラ・バルカ作「十字架への献身」、ロペ・デ・ベガ作「オルメドの騎士」などを上演しています。

 

彼の戯曲はジャン=ルイ・バローというフランス演劇界の重鎮も初演してもいますが、特に友人だったマルセル・エランが初演の演出・出演することが多く、マリア・カザレスという名女優もよく彼の作品に主演しています。往年のフランス映画ファンの方は「おおっ」となる名前が並びます。カザレスとカミュは個人的にも長年にわたり深い関係であり、カルデロンとロペ・デ・ベガ(16世紀、17世紀スペイン黄金世紀の劇作家)の翻訳を助けたのも彼女だったとか(カザレスはスペイン人)。マルセル・エラン亡き後は、自ら演出も行っています。

 

こんな演劇と関係の深いカミュですから、死後半世紀以上たった後、極東の国の若者が自分の小説をきっかけに舞台を作るのを喜び、興味しんしんでどこかから見ているかもしれません。