お別れのブログ

 
投稿者:Director's Choice


Director's Choiceこと栗原一浩は、21年間の文化事業団での仕事を終え、市役所に戻ることになりました。時間の列車を一人降りることになりました。また新しい旅に出なければなりません。お別れです。
 
  
文化会館に私がやって来た時は、市民の方のアンケートに「もう見捨てました」と書かれるほど人が入らない状態でした。事業計画を立て直し、失ったお客様に戻ってきてもらう(会館オープンの時はたくさんの方が来て下さったのです)ため、毎日毎日お客様にいらしていただくために何でもやりました。三鷹の駅前で土下座して「チケットを買って下さい」と頼もうと何度も考え、3年間くらいは毎日熱が37℃くらいありました。都心のホールとは違う、暖かく演奏家に力とエネルギーと愛を贈ることができる聴衆を作ることが目標でした。
毎年コンサートにいらして下さるお客様が増え、いつの間にかチケットが買えなくてお叱りの電話をたくさんいただくような会館になっていきました。


初めはこんな激安王になるつもりはありませんでした。「東京なら○○円、武蔵野なら□□円」というコピーを書いたのは、トラジコメディアという古楽グループの公演がキッカケです。招聘元の社長が、「カザルスホールの5千円はおまえのホールの2千円より安いんだよ。そのくらい武蔵野はダメなんだ」と言った時でした。
そうかなあ・・・じゃあ、チラシに書いてみよう。安いと思って来て下さるかも知れないもの・・・と考えたのでした。


その後、数え切れない方に助けていただきました。やがて自分も人並みに歳を重ねるごとに、人を助けるために仕事をするようになりました。「世のため、人のため、自分のため」に生きなさいと、私に言ったのは、若くして医者を廃業した柳沼医師でした。
海外の超一流マネジメントと仕事をするようになると、日本人の誇りを胸に信頼関係を築いてきました。決して不可能と言わなくなりました。どうしたらできるかを考えるようになり、「信じて」ドアを開けるようになりました。人としての成長以外、世界を相手に仕事ができないと考え、朝から寝るまで勉強を続け、こんなにワガママな人間である僕も「おまえとは仕事ができる」と初めて会って言われるようになりました。
こうして世界中から、演奏家がやってくるようになったのです。


最近はやっと自分のことが少し分かってきました。僕はファンタジックな人間で、音が物に見えます。アルゲリッチが弾けば、音が魚になって鍵盤を飛びだし、シュタットフェルトがバッハを弾けばホールは桜の花で溢れます。天と地のエネルギーを集めて力をもらうようになると言っても理解してもらえる人に出会い、心は安定し強くなりました。この世に存在する"神の手"と呼ばれる人たちには及ばないかも知れませんが、全てを藝術にかけて、人のために生きられるようになりますようにと願ってきました。


最近やっとお客様に最高の寿司を出すように心をこめて一つ一つのコンサートをお出しすることができるようになりました。そして、世界が美しさと奇蹟に満ちて、輝いているような気がしています。
この仕事に就いた時は自分の知識や引き出しの少なさに、自分にガソリンをかけて火をつけるような幻想の中でものを作りました、命を削って。
けれども最近は、幻想の扉を開けて、沢山の美しい奇蹟が星のように僕の上に降り注ぎ、幸福な気持ちの中でものを作ることができるようになりました。


皆様、チケットを買い、沢山のコンサートにいらして下さり、本当に有難うございました。
あと数日で、僕は新たな列車に乗り換えることになります。
そうそう、企画はかなり先まで決まっていますので、事業はおもしろそうなコンサートが次々にこれからも登場するのです。

 
 
では、最後の一皿は、トラットリア・ガルガの、エリオのボロネーゼです。銀座三越にありますので、どなたでも気軽に入れます。なぜこの皿を・・・というと、


これが普通の人の考えるボロネーゼと違い、トマトを主体としており肉っぽくないのです。
これでもボロネーゼ。
これは既成概念をどこまで崩していけるかという見方に繋がります。


「ベートーヴェンはこうあるべき!」とか


「いや、ここまでならアリ!」という演奏とか・・・。


色々考えながら食べてみて下さい。