黒い塊を投げるタメスティ

 
投稿者:ヤマネ


アントワン・タメスティ、またの名をスーパー・ヴィオリスト。吉祥寺シアターにて、おととい。素晴らしい演奏でした。


吉祥寺シアターは残響が1.1秒で、いわゆるコンサートホールのような長い残響ではありませんが、こういう小さな楽器のソロ・リサイタルなどにはとても向いているように思います。照明も暗めにすれば、とてもいい集中力が発生。


照明に少し変化があって、前半は赤、後半は青の色味がややつけられていましたがあれは本人の希望。前半は黄色がいいかな、と最初は言っていましたが最終的には赤になって落ち着いたというわけ。しまった!なんで赤でなんで青なのか、聞くのを忘れた!バカバカバカ!!自分のバカ!


うむ、自分を責めるなんてまるで新島襄のようだ。偉い人なんだな僕は。


阿呆は脇へやって、演奏中、黒い塊がぶっ飛んでいったのに気づいた方、どれほどおられますでしょうか。リゲティの無伴奏ヴィオラ・ソナタの途中での出来事です。


あの曲の第3楽章は「弱音器つきのプレスティッシモ」というタイトルでして、弱音器という名前のいかついゴムをブリッジのところにぶっ刺して弾くんですが(上の画像みたいなやつ)、それを、次の楽章に入る瞬間に投げ飛ばす!というのがリゲティ大先生の指示なわけです。


それが一昨日もつつがなく実行され、コンコロコロと舞台の上を転がっていったのですが、私たちはどこに転がっていったのか、よく見えなかった(見ていなかったとも言う)。曲が終わり休憩に入り、タメスティ選手が、ソルディノ拾ってきてくれよ、と言うから、オーライ、とドスドス探しに出かけたのですが、照明のあまりついてない黒い舞台ですから、どこにあるのかようわからん。


客席の方へ行ったんじゃないか、と言う人もあり客席の方へ。だがない。勇気を奮い起こしお客様に質問する。・・・・「えーと、ソルディノ見ませんでしたかね?」なんて専門用語を使って、はッ?なんやこいつ、格好つけて専門的なこと言うてるわ、ちゃんちゃらおかしいわ、おまえヴィオラ弾けるんけこのナス野郎、とか恐ろしい返事が返って来ても困りますので、できるだけ平静を装って「あのう・・・そのう・・・黒い塊がこちらの方に飛んで来ませんでしたでしょうか」と恐る恐る問うてみました所、ああそれならあっちの方、舞台のうしろのほうに転がっていきましたよ、と。


ははは、よかった。下手に難しい言葉をつかうとろくなことにならないよね、と密かに快哉を叫びながらようよう我々は回収に成功したのである。


ちなみに、タメスティにあとで聞いたところによると、一度アムステルダムで誤って(身体のバランスが崩れて)うっかり客席に飛ばしてしまった事があったとのこと。お客さんめっちゃびびってたそうです。


人生は、驚きの連続だ。たまにはそういうのがあってもいいかもね。